そうべつ人の暮らし
移住者インタビュー
川合 将太さん

株式会社「旅と人」代表 川合 将太さん

北海道札幌市出身
▶ 東京都
▶ 札幌市〜壮瞥町
<二拠点生活歴 3年>

知ってほしい北海道の真の魅力がある。どう伝えるか、模索する

「奥洞爺ジビエ研究所」。
自分で仕留めて、
自分の店で提供するまでを
一貫して手掛ける。

晩秋の洞爺湖。
湖畔を歩く川合さんの背後に、湖の中央に浮かぶ中島が鏡のように湖面に映る。その美しい光景は、地元の人でも滅多に見ることのできない、無風の日に起こる現象なのだそう。
札幌市内でジビエ料理店を経営する川合さんが、2025年、壮瞥町内にシカ肉処理場を設立した。名称は「奥洞爺ジビエ研究所」。
"奥"の名が付く通り、町の中心部から少し離れた山間部に向かうエリアにあり、豊かな自然と星空が美しいことでも知られる地域だ。
「札幌で飲食店を始めて13年ほど経ちます。最初はエゾシカ肉の料理は1〜2品くらいの提供でしたが、おいしいと食べてくださるお客様に応じてジビエ料理のラインナップが増えていく中で、自分たちがメインで扱う食材を、自分で仕留められないかと考えるようになりました」。
近年、"北海道ジビエ"としてエゾシカ肉を味わえる店は増えたが、川合さんが提供を始めた頃は今ほど周知も普及も進んでいなかった。
「エゾシカの個体数が急増し、それに伴う農業被害も深刻化していました。第一次産業に被害が出るのは良くない。ですが、本来生きるはずだった野生動物を獲り、その命を活かさず破棄するのも同じくらい深刻な問題だと思いました」。
コロナ禍で飲食店の営業制限で生じた時間を活用し、川合さんは狩猟免許を取得。それまで専門業者から仕入れていた食材を自身がハンターとして獲り、自分の店で提供する流れにしたい。
狩猟・解体・食肉加工・提供までを一貫して行うジビエ料理店を目指す中で、「奥洞爺ジビエ研究所」の設立は必然だったのかもしれない。

祖父母の家がある町。
大人になった今でも
ふと思い出す
自然豊かな壮瞥の風景。

川合さんが「奥洞爺ジビエ研究所」の設立場所に、壮瞥町を選んだのはなぜか。
「明治の時代に曾祖父が山形から移住し、壮瞥町は祖父母の家がある町で、子どもの頃から大好きな場所でした」。
支笏洞爺国立公園内にあり、昭和新山、洞爺湖、有珠山など世界に誇れるダイナミックな自然に恵まれた壮瞥町。札幌出身の川合さんにとって、子どもの頃に遊びに行った祖父母のいる町の風景は、今でもふと思い出す大切な記憶だった。
しかし、自然豊かな壮瞥町もまた他の町と同様に、エゾシカの急増による農作物への被害が課題であることを知った。
「狩猟免許を取得した時、縁のある壮瞥町で修行できたらと最初は考えていたのですが、町のエゾシカの駆除数や農業被害の話を聞くうちに、今のスタイルになった感じです」。
駆除され破棄されるだけの現状を知り、自前の食肉処理場を壮瞥町に建設できないだろうかと思った。
自分で捕獲した個体を自らで解体、精肉・加工品にし、野生動物からいただく命をおいしく食べる機会を増やす。それが、少しでも町の観光資源につながればと考えた。
こうして、川合さんはエゾシカの食肉処理場の設立を計画。札幌の飲食店はスタッフに任せて、壮瞥と札幌を行き来する生活が始まった。資金調達や事業計画、申請など様々な工程とハードルをクリアして2025年夏、保健所から食肉処理業の営業許可を取得。狩猟が盛んになる秋から本格稼働した。

品質の決め手は、
鮮度維持。
捕獲後1時間以内に
作業ができる好立地。

『設立 令和七年 奥洞爺ジビエ研究所』の看板が掲げられた、川合さんのエゾシカ食肉処理場を見せていただいた。
処理場内には様々な種類の専用ナイフやウインチ、高性能冷凍庫などの設備が完備され、作業が効率よく行える配置になっている。さらに、この処理場は猟場からほど近い場所にあることが大きなメリットだと言う。
「品質の決め手となるのは、鮮度をいかに維持するかです。近郊で仕留めた個体は、この場所なら1時間以内に搬入可能で、迅速に洗浄、枝肉にし、部位ごとにカットして梱包。業務用の冷凍庫で急速冷凍します」。
『奥洞爺ジビエ研究所』は、川合さんの自宅敷地内にある。周囲は一軒一軒の距離が離れている山間部の集落で、近くには温泉や川が流れ、その奥には豊かな森が広がっている。
「移住(二拠点生活)して3年くらい経ちますが、苦労していることは雑草が永遠に生えてくることですかね(笑)。草刈り、毎年、試行錯誤しています」。
町の山間部に位置するエリアだが、商業施設や学校、病院などがある隣の伊達市までは、車でおよそ15〜20分ほど。
「生活面で困ることはあまり無いです。ただ、移住前に知っておくといいのは、病院へのアクセスですかね。町にドラッグストアが無いので、市販薬を買える店や医療機関の場所などは事前に確認しておくと安心だと思います」。

いただく命を、
活かしきる。
壮瞥でしか味わえない
ジビエラーメン。

川合さんが捕獲から手がけるエゾシカ肉は、自身が経営する札幌のジビエ料理店のほかに、壮瞥町でも味わうことができる。
その場所が、洞爺湖畔にテントを張れる人気のキャンプ場「仲洞爺キャンプ場」内にある『来夢人(きむんど)の家』。
壮瞥町と友好都市を結ぶフィンランド・ケミヤルヴィ市との縁から、樹齢200年のフィンランド産アカマツを使用した大きなログハウスの建物には、公共温泉施設と食事処があり、川合さんは2025年この場所に『味処 旅と人』をオープン、地元の恵みを活かしたメニューを数多く提供している。
そのどれもが、個性的だ。なかでも名物メニューが、『縄文エゾ鹿味噌ラーメン』。
「これは業界初かもしれないくらい珍しい、シカ骨からダシをとったラーメンです。丁寧に血抜きや処理を施したエゾシカの骨は、時間をかけて炊き出すことで臭みのない良いスープがとれます」。
自分で仕留めたエゾシカを骨まで活かしきることはできないかと考案した。その味を完成させたのは、厨房を任されている店長。人気ラーメン店で長く修行を積んだ店長が試行錯誤の末、エゾシカの骨を使ったスープを完成させた。トッピングには、エゾシカ肉のチャーシューと、高級部位ロースを使った自家製ロースト肉の2種がのっている。壮瞥町でしか味わえない贅沢な"ジビエラーメン"だ。
「北海道の魅力を食にどう活かせるか、という想いでずっとやってきました。駆除によって破棄されるエゾシカの肉をおいしく食べることで、いただいた命を活かしきれたらと思っています」。
そう話す川合さんの活動は、持続可能な飲食店として未来への礎になっていくだろう。同時にそれは、「おいしくいただく」という、食に対する最も基本的で大切な心のあり方を、私たちに教えてくれる。

Pick up

エゾシカの食肉処理場「奥洞爺ジビエ研究所」。静かな山あいにあり、猟場からさほど遠くない立地が決め手になった。一緒にいるのは北海道犬の「レイラ」。

「味処 旅と人」では、「エゾ鹿スパイスカレー」「エゾ鹿餃子」などのメニューも。ヒグマの毛皮が飾られた臨場感のある店内で、北海道ジビエをぜひ。

凛とした空気に包まれる晩秋の洞爺湖は、キャンパーたちで賑わう夏とは違った表情を見せる。無風のこの日、湖面に映る中島は刻々と色彩を変え幻想的だ。

仲洞爺温泉 来夢人の家
(きむんどのいえ)

壮瞥町仲洞爺30-11
キャンプ場併設の日帰り温泉・食事処・休憩所
営業時間:夏期(4〜10月)10:00〜20:30(最終受付20:00)、冬期(11〜3月)10:00〜19:00(最終受付18:30)
定休日:祝日を除く毎週火曜(7・8月は無休)、冬期は火・水曜

Homepage

https://sobetsu-kanko.com/onsen/kimundo

Instagram

「味処 旅と人」 @tabitohito_in_kimundonoie

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