- そうべつ人の暮らし
- 移住者インタビュー

北海道室蘭市出身
▶ 神奈川県横浜市
▶ 東京都
▶ 壮瞥町
<移住歴1年9ヵ月>
今回ご登場いただく移住者は、佐々木尊英(たかひで)さん。
インタビュー中は親しみやすい笑顔とトークで終始、和みムード。しかし、サックスを手にした途端に、「Son-A(ソンエー)」としてアーティストの顔に一変する。
60代半ばの尊英さんは、長年勤務した横浜の会社をセミリタイアし、壮瞥町へ移住。フルリモートで専門的な職務を全うしながら、ある時はサックス、ある時はフルート奏者として仲間とステージに立ち、演奏活動を楽しんでいる。
壮瞥町役場から徒歩10分圏内のご自宅は、町の市街地エリア。幹線道路から程近い場所にもかかわらず、バルコニーの向こうには豊かな緑が広がっている。
「移住先で家を探す時の条件は、近隣に住宅があまり無いこと、楽器の音を出せること、海や山が見えること、でした。壮瞥町に海はありませんが、このバルコニーの先には町民が守り続けてきたという清流の壮瞥川が流れ、緑の借景を楽しみながら音も出せます。車で少し走れば洞爺湖が、歩けば昭和新山を間近に見る。そして、一戸建てとしては珍しい賃貸だったことも決め手の一つでした」。
横浜のご自宅をそのままに、妻の祐子さんと移住。社会人の息子さん・娘さんたちが横浜の自宅を守ってくれるので、必要があれば祐子さんが短期間で横浜へ帰るというライフスタイルだ。
「妻は横浜出身なので涼しい場所に住んでみたいと。よく考えると長野なども候補に挙げられるけど、当時は北海道しか思い浮かびませんでした。私は室蘭出身、この地域の気候を知っているつもりでしたが、最近は北海道も猛暑日があり、妻は驚いていますが、空気の質は清々しいです」。
尊英さんは、窓越しの緑を眺めながらパソコンに向かう。エレクトロニクス製造業の会社員でありながら完全リモートワークを実現しているのだが、聞けば、かなりの専門分野。
「知的財産や特許出願に関わる仕事でして。私自身、今は設計者ではありませんが、技術部の知財グループに所属し、知的財産、特許、商標、意匠に関する業務を担当しています」。
食品や自動車製造などの過程で必要とされるオートメーション機器の開発・製造を行う企業で、尊英さんは技術者が大勢いるフロアにデスクを置き、コロナ禍でもリモートワークができない業務だったそうだ。ところが、尊英さんが移住を考え始め会社にリタイア宣言すると、知財分野に精通した尊英さんにまだまだ仕事を依頼したいと、会社側がフルリモートでも業務が成立するよう環境を整備、有期契約という形で契約更新しながら仕事を継続することになった。
「音楽は横浜にいる時からやっていました。ジャズのなかでも私はもろジャズよりも、ラテンやコンテンポラリーミュージックですね。横浜ではそういう方たちの知り合いが多かったので」。
尊英さんは会社員をしながら、松田聖子や矢沢永吉などのツアーをつとめたサックス&フルート奏者の菊地康正氏に師事、その後、自身も東京や横浜で演奏活動を続けてきた。
「でも、演奏活動は移住後の今の方が爆発的に忙しいんですよ(笑)。首都圏はプロ・アマ含め演奏者が大勢いますからね」。
移住歴の浅い尊英さんに演奏オファーが続々。壮瞥でどんな出会いがあったのだろうか。
「壮瞥町に知り合いは全くいませんでした。最初は散策がてら洞爺周辺でカフェに遊びに行っているうちに音楽をやる方と出会い、その方の繋がりでどんどん知り合いが増え、生演奏をするカフェやワインバー、地域のイベントなどでサックスやフルートを演奏する機会が増えていきました」。
インタビュー時点で、すでに半年先までコンスタントに演奏オファーが入っているのだとか。
「多い時は週に2、3回はどこかで演奏しています。生演奏を聴かせるカフェや飲食店、夏休みは神社の祭りやイベントだったり、洞爺湖周辺には観光ホテルが多いのでラウンジでの生演奏に呼んでいただいたり、という感じですね」。
年末年始もカウントダウンやニューイヤーイベントなどが続き、Son-A(ソンエー)さんは大忙し!
「仕事を続けながら趣味の音楽活動を楽しめるのは幸せなことですね。でも、私にはもう一つやりたことがあって。それは、妻の活動を応援することなんです」。
尊英さんだけが充実した移住ライフを送っているわけではない。妻の祐子さんにも挑戦したい事があり、壮瞥町で活動を始めている。
「夫婦それぞれ、やりたいことを楽しんでいます。妻は私の音楽活動に口を出すことはないけれど、演奏を聴きに来てくれる。だから私も妻の活動を支援したいと思っています」。
尊英さんは、祐子さんが居る場所へ案内してくれた。そこは、壮瞥町の中心部にある、空き店舗をリノベーションした『まちなか交流館 ヴァロア』。祐子さんが素敵な笑顔で出迎えてくださった。
『ヴァロア』とはフィンランド語で、灯り(あかり)を意味する。『まちなか交流館 ヴァロア』は、家でも、学校でも、会社でもない、<第3の居場所>として誰もが居心地のよい空間となることを目指しており、祐子さんは、『ヴァロア』を開業した空き家コーディネートを行う地域おこし協力隊員と出会い、お手伝いとしてこの場所の活動に携わっている。
「ここは、勉強や仕事ができるコワーキングスペースがあり、友人との待ち合わせや一人で本を読んだりできるフリースペースとしても使えるので、利用目的は人それぞれ。町内外からさまざまな人が訪れます」。
祐子さんは横浜で、子どものキャリア支援に携わっていた。移住後もそのキャリアを活かせたらと、『ヴァロア』をサポート。週末にはフリーマーケットなどのイベントも開催されるという。
「大人も、ゆるく繋がるもう一つの居場所として、何でも話せる場所になったらいいですね」。
そう話す祐子さんは『ヴァロア』のオープン当初、「食」も楽しめたらと、彩り豊かなコッペパンサンドやワンプレート料理を提供するなど大活躍。すると、尊英さんが横から、「私もDIYのお手伝いやオープニングイベントでは演奏もしました」と、妻を応援する夫をアピール!
現在『ヴァロア』はブックコーナーが充実し、子どもが町の中で気軽に本に触れ合える空間にもなっている。その後、さまざまな出会いを通して祐子さんは、小学校での本の読み聞かせや、地域交流センター「山美湖(やまびこ)図書室」の図書イベントにボランティアで参加するなど、活動の場を広げている。尊英さんと祐子さんはお互いのやりたいことを尊重し、時として協力し合う素敵な関係だ。
「都会人は期間限定でも良いので地方に住んでみるべきだと思います。今までの生活にない豊かさを感じ、住んだことのない土地での暮らしを通して、新しい自分に出会うことができるかもしれませんから」と尊英さん。
人生に、遅すぎるスタートはない。尊英さんと祐子さんの笑顔が、それを教えてくれる。
壮瞥町字滝之上町256-10(旧ショップインふじかわ)
営業時間:水〜土 10:00〜18:00
定休日:日・月・火
▶ https://www.instagram.com/koryukan_valoa/