そうべつ人の暮らし
移住者インタビュー
今井 亮輔さん

壮瞥町役場 地域おこし協力隊 ヨツカド商店 ワイン担当 今井 亮輔さん

神奈川県横浜市出身
▶ 川崎市
▶ 壮瞥町
<移住歴1年2ヵ月>

火山による「食」の恵みと自然派ワイン。ここにしかないペアリングでまちの魅力を発信。

土地の個性、風土、
造り手の想い。
背景にある物語を味わう
自然派ワイン。

テーブルに並べられたワインボトル。これらは、すべて自然派ワインだ。
一言で「自然派」と言っても、ビオワインやオーガニックワインなど様々な呼び方がある。
オーガニックワインは、有機栽培のブドウを使用し、様々な厳しい基準を満たした上で認証を得たワインのこと。一方、ビオワインは、国や地域によって基準や定義は異なる。
「自然派というのは、人の手をなるべく介入させない、という意味でもあります。定義は広いのですが、私は、そこまで神経質になって選んでいません」。
そう話してくれるのは、今井亮輔さん。壮瞥町地域おこし協力隊であり、「道の駅 そうべつ情報館i」の向かいにオープンした『ヨツカド商店』のワイン担当として、自然派ワインを中心とした商品セレクトや仕入れを行う。
「このワインは、イタリア自然派ワインの第一人者、アンジョリーノ マウレさんという造り手の『ラ・ビアンカーラ』。ここで修行したダニエーレ・ピッチニンさんという人が造った『ムーニ』は、ほどよく個性が感じられるバランスのとれたワインで、おいしいのにリーズナブルなんです!ラベルにシチリアのエトナ火山が描かれた『ススカール・ロッソ』は、梅干しのようなニュアンスのある味わいで・・・」。
え? イタリアで梅干しみたいな味!
今井さんの説明は、わかりやすくて面白い。造り手や産地を身近に感じられ、惹き込まれてしまう。
「自然派ワインは、ブドウ、畑、造り手の個性がストレートに出るワインです。だからこそ、土地の個性や風土など、背景にあるストーリーを知ってもらえたら一層楽しめると思います」。
では、今井さんがなぜ自然派ワインにハマり、なぜ壮瞥町に移住したのか。背景を知るとしよう。

社会の基盤を
ITで支える仕事。
しかし、40歳の時に
気持ちが爆発!

「前職は、NTTデータというIT企業にいました。主に官公庁や自治体を担当する部署で、インフラ設備の管理システムや工事の工程を効率化するシステムなど、様々なプロジェクトを経験しました」。
ワインとは無縁と思われるIT系の職種。それは、デジタルトランスフォーメーション(DX)にかかわる仕事で、社会基盤や人々の暮らしをより快適にデザインする仕事、とも言えるだろうか。
「実は、祖父がダム建設に携わっていたこともあり、学生時代は建築家になりたいと思って大学に進学しました。その時に『まちづくり・都市計画』に興味を持ち始め、地方の豊かな資源と都会生活者の需要を結びつけるツールはITだと考え、就職先を選びました」。
学生時代からの夢に少しずつ近づいていた今井さんだが、キャリアを重ねるうちに100人を超えるプロジェクトメンバーを束ねるプロジェクトマネジメントを任されるようになった。プログラマーなど様々な職種と協働し、大きなやりがいを感じる一方で、現場に出る機会が減ってしまい、ある記憶が蘇った。
「それは、大学院時代に、地域づくりのインターンシップに参加した時のことです。鹿児島県大口市(現・伊佐市)に20日間ほど滞在し、地域の人と一緒にまちを盛り上げる施策を考えたりしました。難解な鹿児島弁や、それまで全く知らなかった南九州の文化に触れつつ、まちづくりにかかわったことがすごく刺激になって。あの時のワクワクした感覚が、ずっと自分の中に残っていたんです」。
そして今井さんはついに、2006年から2021年まで15年以上も勤めた会社を辞め、IT業界からすっぱり離れようと決意。
「まちづくりへの想いが爆発したのが、40歳でした(笑)」。

チーズ、ワイン、人。
「食」をキーワードに、
北海道移住を決意。

IT企業の第一線で活躍してきた今井さん。プライベートでは、ナチュラルチーズに精通する「食」のプロともいえる奥様の真希さんと、2人のお子さんがいる。
「妻は青森出身で、大学時代は北海道で酪農やチーズ製造を学んでいました。チーズを扱う企業に入り、子どもたちが生まれてからは、チーズを仕入れて売ったり、青森の生産者から野菜を直接買い付けてマルシェを開催するなど、生産者の想いとチーズのおいしさを伝える活動をしていました」。
二人とも食べることが大好き。真希さんがセレクトするチーズに自然派ワインを合わせたり、様々なレストランやワインショップを巡ったりして楽しむうちに、今井さんは自然派ワインの"沼"にハマった。
「最初に自然派ワインと出会ったのは、山梨県北杜市にある専門店。店主の勧めで買って飲んだ1本のワインが、興味を持つきっかけになりました」。
その後、真希さんは、同じ青森出身でコーヒーの"沼"にハマる、[1]前橋史子さんと出会い、さらに、同じ青森県出身で都内にあるイタリアンレストランのシェフとマルシェを開催するなど、「食」にかかわる活動を精力的に続けていた。チーズとコーヒーの組み合わせを紹介したり、青森県産の野菜をマーケットで販売するなど、「食」と「青森」をキーワードに人の輪が広がっていた。その頃、前橋さんが勤務するコーヒーショップで開催されたワイン会で、今井さんは自然派ワインに、どハマりしたのだとか。
「自然派ワインやチーズなど、「食」が自分の中でとても大切で、「食」を中心として人の集う場をつくりたいという想いと、まちづくりにかかわることへの想いが徐々に強くなりました。また、コロナ禍でリモートワークが進むなど、働くこととの付き合い方をゆっくり考え直していたこともあり、それらのすべてのタイミングが合致して、移住を決意。「食」は自分たちの中で優先順位が高かったので、「食」の豊かな北海道という選択肢は自然の流れでした」。

手が入り過ぎていない、
ありのままが魅力の壮瞥町。
ここには、可能性が
たくさんある!

今井さんには、移住先を壮瞥町に決めた理由がある。
「移住地を探すための北海道旅行で、洞爺湖エリアに来た時のことです。穏やかな湖に映る雲や中島を眺めていたら、『ここに住みたい!』と強く感じました」。
洞爺湖畔の中でも、湖の東側に位置する壮瞥町。夕陽が沈む湖畔の光景が美しく、移住後の今も、壮瞥町内で一番好きなスポットだという。
「もう一つ大きな理由があります。北海道で移住地として人気の高い他の市町にも行ってみましたが、すでにたくさんの人の手が入り、できあがっている感じがしました。壮瞥町は、良い意味で、チャレンジできる可能性がたくさん残っている。まちづくりを夢見ていた私としては、壮瞥町の自由度が魅力的でした」。
2021年、家族とともに移住した今井さんは、現在、壮瞥町の地域おこし協力隊として「移住コンシェルジュ」活動をしている。移住検討者の疑問や相談に応じたり、町が管理する「移住体験住宅」の運営管理や体験希望者のアテンドなどの他、壮瞥町に移住した人の定住支援も行なう。
「移住相談に来た方に壮瞥町について聞かれたら、等身大の情報をお伝えするようにしています。都会生活者としての目線も持っている私のような移住者が、"生きた情報"を発信することは意義があると思っています。また、定住支援では、移住した方が町内外の方とつながる場所や機会が必要だと感じています」。
その言葉の通り、2022年夏、町の中心地に地域おこし協力隊が運営するコミュニティスペース『地域のあそびば ミナミナ』がオープンした。人・モノ・情報が集まり、それら点と点を結ぶことで町の魅力を発信する新しいスポットだ。
「『ミナミナ』は、気軽に立ち寄れるカフェのような場所です。不定期で様々なイベントを開催しており、出展者と参加者が集うことで仲間づくりの機会にもなっています。今後、移住者懇親会も企画していますので、移住された方がさらに安心して暮らせる環境づくりに取り組んでいきたいですね。
『ミナミナ』は、"チャレンジの可能性がたくさんある町"を体現できる場となりそうだ。

"移住して、起業する"。
新しいことを始めたい人の
拠点となる場へ。

コミュニティスペース『ミナミナ』と同じ建物内にある『ヨツカド商店』には大きなワインセラーが設置され、今井さんが厳選した自然派ワインがずらりと並んでいる。
「『ヨツカド商店』『ミナミナ』のオープンまでには、多くの方々に支えていただきました。まちのために挑戦したいと取り組んでいることに対し、役場や町の方々が様々な観点から真剣に考えてくださり、一緒に知恵を絞っていただきました。私一人では難しい課題も、町の皆さんのお力添えで実現に至ることができたと感謝しています。また、これまでの「食」関連のつながりから、ワイン業界のキーマンをご紹介いただき、インポーターや造り手の方たちと商談することもできました。最前線でワインビジネスをしている方たちの生きた情報やワインへの情熱を肌で感じ、壮瞥町で成功させたいという想いが一層強くなりました。"移住して起業する"。組織を飛び出した私にとって、人との出会いが、かけがえのないものであることを学びました」。
そう話す今井さんの「まちづくり」への夢は、一歩を踏み出したばかりだ。
「『ミナミナ』がオープンしたことは、大きな一歩だと考えています。人が集まり、つながり、そこから新しいものを生み出せたら。私自身がそうだったように、何か新しいことを始めたい人にとっての拠点となる場にしていきたいですね」。
もう一つ、壮瞥町で実現したいことがある。
「洞爺湖の見える場所に「食」を中心とした、人の集まる場を作りたいと考えています。地元食材を使ったレストランと宿を作り、山羊を飼い、小さな"村"のようなイメージです。壮瞥町は湖以外にも山々や川、田畑など、ふと目に入る光景が素晴らしく、火山から授かった資源もたくさんあります。それらと様々なストーリーを持つワインを組み合わせると、どんな豊かな味わいになるのか。ここでしか出会えないペアリングを提案したいです」。
「土地の個性」を意味し、ワインの世界ではブドウ畑を取り巻く環境を『テロワール』という言葉で表す。壮瞥町の自然を満喫しながら、この土地の「食」を自然派ワインと楽しむスタイルを、『壮瞥テロワールの旅』と呼ぶ日が来るかもしれない。

Pick up

食べることが好きで、パンやお菓子づくりが趣味だという今井さん。時間があれば、チーズケーキやフロランタンを手作りすることも。壮瞥町産のワイン用ぶどうを使った自家製酵母を使うほどのこだわり。

「IT系から離れる」と決意し退職、移住したが、前職の仲間の紹介で北海道のIT企業とつながりができ、現在、ITコンサルタントの複業もしている。人との出会いが移住や起業に重要だと話す。

移住後、子どもたちがたくましくなったと感じるそうだ。日々の生活や片道30分の登下校で鍛えられたからか、近くの山を散歩する時にスタスタと登る姿を見て、強くなったなぁと成長を実感。

人と人、たくさんのおいしいものが交わる場
ヨツカド商店

チーズ・自然派ワイン・コーヒー・おやつ・壮瞥町産フルーツのデザートやドリンク
火~木 9:00~19:00 | 金・土 9:00~22:30 | 日・月 定休 (冬期営業時間変更あり)

https://yotsukado-shouten.com/

そうべつを知り、そうべつをつなげる
地域のあそびば ミナミナ

まちかど案内所・イベントスペース・休憩スペース・ミナミナ文庫
火~金 10:00~17:30 | 土 10:00~17:00 | 日・月・祝 定休

https://sobetsu-minamina.studio.site/

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