そうべつ人の暮らし
移住者インタビュー
山田さん

温泉旅館 いこい荘 専務取締役 山田 光大さん

北海道札幌市出身
▶ 宮城県仙台市
▶ 壮瞥町
〈移住歴8年〉

想いを継いで未来へ。持ち前のフットワークで、アイデアを旅館の魅力に。

バドミントンの
日本リーガー、
壮瞥で指導者になる。

「パーン」「スパーン」「カン」
バドミントン・ラケットでシャトルを打ち込む小気味よい音が、夕方の体育館に響き渡る。
「お願いしまーす!!」
幼児から小学生までの子どもたちが自ら号令をかけて柔軟運動を始め、その後、体育館を何周も走り込む。楽しそうな歓声や元気な笑い声。そして、ラケットを使った練習が始まると、子どもたちの目はさらに輝き出す。フットワーク、ノックといった練習や、コートの後方ラインぎりぎりに置かれたフラフープの円の中を狙って打ち返す練習など、真剣かつ楽しそうにショットを繰り返す子どもたちに声を掛ける男性がいる。
それが、「壮瞥町バドミントンジュニア」監督のミツ、こと、山田光大さんだ。
実は山田さん、国内の社会人団体戦の最高峰に位置付けられるバドミントン日本リーグ(現在はバドミントンS/Jリーグ)の出場経験を持つ、日本リーガー。
自身も小学生の時にバドミントンを始め、めきめき頭角を現すと、ジュニア大会で全国ベスト8の成績をおさめ、以後、高校、大学はバドミントンの強豪校に進学した。
「僕は札幌出身です。学生時代もずっと札幌で、大学生の時に実業団チームの監督が自分たちの練習を見に来てくれて、たまたま見つけてもらった感じです」。
謙遜して話しているが、これは、いわばスカウト。山田さんは大学卒業後、仙台に本拠地を置くNTT東日本-東北グループの企業を母体とするチームに所属、実業団選手として夢を追い続けた。
全国を舞台に活躍するアスリートの山田さんが、どんな縁で壮瞥町に来たのだろうか。

義父の想いを継ぎたい。
北海道へ戻り、
旅館業の修行を開始。

昼間、山田さんにお会いすると、農作業用の「つなぎ」姿だった。
「朝起きたら、旅館の裏にある田んぼや自家農園で作業をします。有機栽培のアスパラガスやトマト、葉もの野菜などを収穫し、『道の駅そうべつ』の農産物直売所コーナーに採れたてを陳列します。戻ってきたら、客室の清掃、温泉の風呂掃除。午後からは宿泊客にご提供する食材を収穫したり、厨房に入って夕食の準備をしながら、チェックインのお客様をお迎えします。バドミントンのある日は、小学校の体育館で子どもたちと練習ですね」。 
農業、旅館業、ジュニアスポーツチームの指導者、そして現在は商工会青年部部長も兼任し、一人で何役もこなす山田さんだが、本当の肩書きは、壮瞥町で60年以上の歴史を誇る洞爺湖畔の『温泉旅館 いこい荘』の専務取締役。
「バドミントンの実業団チームには2012年まで所属しました。その前年、東日本大震災の時も仙台にいて私自身は市内中心部だったので無事でしたが、身近な人が家を流されたり、被害の大きかった気仙沼には知人がいました。未曾有の被害に直面し、様々なことを考えさせられました。そんな時です、震災の翌年に、妻のお義父さんが余命宣告を受けたことを聞きました」。
義父とは、山田さんが専務取締役を務める、ここ『温泉旅館 いこい荘』の当時のオーナー。
「それまではバドミントンで食べていくと決めていました。でも、妻の実家の旅館を継ぐ人がいないと聞いて。最初は自分に旅館の仕事が務まるのか不安でしたが、北海道出身の私は、洞爺湖や昭和新山は道内有数の美しい観光地で、温泉や食にも恵まれた土地であることを知っています。そこで旅館を営んできたお義父さんのことを考えると、やはり、その想いを受け継ぎたい。決心して北海道に戻りました。お義父さんは体調が苦しい中ではありましたが、僕に旅館の仕事を一通り教えてくれたのです」。

宿の魅力を磨こう。
自家栽培米、朝取れ野菜、
ジビエにも挑戦。

山田さんの仕事風景を覗かせていただいた。客室の布団敷きは手早く、ピンと整えられたシーツがなんとも気持ちいい。厨房へ行くと手慣れた包丁使いで、宿泊客の夕食の準備をしている。
「仙台で自炊していた時は、簡単な炒めものしかやったことがなくて(笑)。調理も、風呂掃除も、布団の上げ・敷きも、全部、お義父さんから教わりました」。
『いこい荘』の魅力はたくさんあるが、なんと言っても、旅館の裏にある広大な自家農園で収穫された、自家栽培米と採れたての新鮮な有機野菜が、夕・朝食を彩ることだ。さらに、有珠山の溶岩が冷えて固まった石板で焼く「溶岩焼き」の奥洞爺牛や近海の幸も自慢料理の一つ。
「ジビエも始めました。旅館裏手の田んぼの奥には山があり、エゾシカがいるんです。近くのレストランオーナーにジビエの魅力を教えてもらい、エゾシカ肉のステーキを夕食でご提供しています」。
新しいことに果敢にチャレンジしている山田さん。そのどれもが、火山がくれた肥沃な大地と地球の息吹を感じる世界的にも稀有な自然に恵まれた壮瞥という場所だから実現できた。
「長引くコロナ禍で、修学旅行生も、インバウンド客も、なかなか来れなくなりました。しかし、今こそ新しいことに挑戦できると、前向きに捉えています。コロナで旅館の仕事が激減した分、農作業にも専念できました。田んぼや農園は91歳になる嫁のお祖父さんが1人でやっていたので、手伝い始めたことがきっかけです」。
コロナ禍は、山田さんにとって『いこい荘』の魅力を見直す大切な機会となった。
「でも、ジビエは予想外にお客様の反応が薄くて...(笑)。トライ&エラーで頑張ります」。

趣味のドローンが
ダイナミックに楽しめる!
込自家栽培米の
『甘酒』も発売中!

『いこい荘』のフロントには、面白いツールがある。
SNS(インターネット上のコミュニティサイト)のFacebookのデザインを模した大きなフレームで、その名も、ikoibook(いこいブック)。
「『いこい荘』をもっと発信したいと思って、切り抜いた部分を"顔ハメ看板"のように使ってもらおうと自作しました(笑)。実際に、宿泊されたお客様はご自分の顔を入れて記念写真を撮って楽しんでくださっています。その画像がお客様自身のSNSに投稿され、『いこい荘』が一人でも多く方の目に止まれば嬉しいですね」。
義父の時代にはなかったSNSでの発信。さらに山田さんは、旅館のホームページのリニューアルにも着手。一新したホームページは、美しい写真とともに『いこい荘』と壮瞥町の魅力を伝えている。
楽しみながら仕事をしたいと話す山田さん、自由時間は何をして過ごしているのだろう。
「洞爺湖や昭和新山をドローンで撮影して楽しんでます。自宅からすぐの場所にドローンジェニックなスポットがいっぱい。この醍醐味は、壮瞥町ならではです」。
さらに今、新しい試みも始めている。
「うちの自家栽培米を使った甘酒をつくり、やっと商品化にこぎつけました」。
なんと、『いこい荘』オリジナルの商品開発という新たなプロジェクトを始動させ、実現させていたのだ!
「自家農園では、北海道のブランド米である「ななつぼし」「ゆめぴりか」の栽培のほかに、壮瞥町特産のりんごや他の果樹も栽培しています。甘酒は、"飲む点滴"といわれる人気の発酵食品。そこで、『いこい荘』の自家栽培米を発酵させた甘酒をつくろうと試行錯誤を繰り返し、ようやく完成させました。ゆくゆくは、壮瞥産りんごを使った〈りんご味の甘酒〉もシリーズ商品として構想中です。加工品は旅館オリジナルの土産品にもなりますし、道の駅でも販売できるので、『いこい荘』や町の特産品を知ってもらえるチャンスも広がります」。
温泉上がりの一杯に甘酒、これは、体にも心にも良さそうだ。
「壮瞥町は町全体の一体感が素晴らしいと思います。私が何か始めようとすると、色々な方が協力してくれます」。
思えば、バドミントンという競技に不可欠なのは、瞬発力とフットワーク。アイデアを形にする山田さんの行動力は、お義父さんが大切に守り抜いた『いこい荘』に、新たな魅力を与えていくだろう。

Pick up

ハードな日々の中で山田さんが息を抜く時間が、息子さんと楽しむバドミントン。昨年から壮瞥町バドミントンジュニアに参加し上達中の息子さんと本格的なラリー。娘さんを抱っこしてもさすがは実業団選手、上手い!

洞爺湖畔に建ち、昭和新山などの自然に囲まれた 『温泉旅館 いこい荘』。24時間入浴可能な掛け流し天然温泉と自家農園の食材を使った料理が評判。好天の日は、客室から洞爺湖ブルーと中島が浮かぶ美しい景色が望める。

美容と健康によいとされる甘酒に注目し、自家栽培米を使ったオリジナル商品として2022年2月から 発売中の『甘いこい酒』。ネーミングの中に『いこい』の文字が入っているのもポイント。湯上がりの 一杯として新定番を狙う!

温泉旅館 いこい荘

温泉旅館 いこい荘
https://www.ikoiso.com/

壮瞥バドミントンジュニア(SBJ)ブログ
https://ameblo.jp/mitsuhiro5143/

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