リノベーションして田舎に住む

story#07

そうべつ人の暮らし
移住者インタビュー
中畑さん

リノベーション宿泊施設運営・有機珈琲豆販売・地域環境保全 中畑和幸さん

和幸さん 北海道出身
妻・まい子さん 千葉県出身
▶ 東京都内(海外渡航多数)
▶ 千葉県 ▶ 北海道札幌市
▶ 富良野市 ▶ 壮瞥町
<移住歴3年>

洞爺湖ビューの古民家をリノベーション。世界に誇る自然と暮らし、ビジネスチャンスも発掘。

泥んこ遊びはダメと諭す苦しさ。『ホットスポット』という現実。

そこは、まさに湖畔の小さな一軒家。洞爺湖を望む小高い場所に建ち、森の緑がやさしく寄り添う。積み重ねられた薪、ウッドデッキ、玄関先には「シーグラス」を埋め込んだ可愛らしい足洗い場まである。波に揉まれ丸みを帯びた赤や青のシーグラスは、独特の風合いを放っている。
「シーグラスは湖畔にいっぱいあるんですよ。子どもたちと楽しみながら集めました」。
中畑和幸さん、妻のまい子さん、長男ユウくん、次男スバルくんの一家4人が暮らすこの住宅は、築40年以上。夫妻でコツコツとセルフリノベーションし、趣味で収集したアンティーク家具が映える、居心地のよい空間になっている。
「移住したきっかけは『3.11』でした。僕たちが当時住んでいた場所はいわゆる『ホットスポット』と呼ばれる、放射能汚染濃度の高い地域だったのです」。
当時、ユウくんは泥だらけになって遊ぶ年頃。子どもの外遊びを制限しなければならない状態に鬱々とした日々、専門職であった障碍者福祉を退職し、移住を決心。そこで、和幸さんの出身地である北海道に行き先を絞り込んだが、頼るあても無ければ、資金も無かった。最初の1年間は準備期間のような状態で、あっという間に月日が流れたという。
「とにかく家探し、仕事探し。半年間ほど住んだ札幌は"不時着"みたいなもので。自然は近くにありましたが、住宅街のマンションに住み、会社員になってサラリーをもらう生活。『3.11』でこれまでのライフスタイルを見直し、新しい人生を始めようと決心したのに、結局、移住前と同じ都会型生活をすることに夫婦そろって発狂しました。そのくらい追い込まれていましたね」。

念願の自給自足生活を開始。"用務員さん"の職を得て、地域の教育現場に潜入するも...

軽自動車に生活道具を積み込み、札幌を飛び出した。北海道内を巡り、空き家探しを始めのだ。
「広い北海道、探せば色々な空き家はありました。タダでいいから引き取って欲しいと言われたことも。しかし、子どもたちの学校や教育環境を考えると、どの地域でも慎重になりました」。
そして、富良野に辿り着いた。空き家バンクで見つけた家の周辺は農家が多く、自給自足を始めるには好環境だった。
「畑を作り、野菜を育てました。家から30秒ほどの場所には沢もあり、子どもたちとイワナやヤマメ釣りをして、釣れたらすぐ夕飯、という生活は叶いました」と、まい子さん。
千葉にいた頃に自然農と出会い、不耕起栽培、無農薬、在来種育成の経験があった夫妻にとって、理想の住環境が叶始めていた。しかし、大きな課題があった。子どもたちの教育環境だ。
「特に過疎化が進む農業地域では、ひと学年3〜4人の複式学級であり、中学校卒業まで同じ仲間と共に時間を共有し、共に成長するという一見良い部分もありますが、正直、変化や多様性については悩む部分がありました。そのような環境が自分の子どもにとって適した環境かを本気で考え、どうにかして、リアルな教育の現場をこの目で見たいと思いました。幸いにも"用務員さん"の職を得ることができ、実際の教育現場の中身を知ることができたのです。まるで、忍び、ですね(笑)」。
この貴重な経験を通じて、既存の教育ではなく、他の選択肢を模索することを夫妻は選んだ。

洞爺湖畔を
ベース・キャンプ地に。憧れの「湖畔の小さな平家」と
出合う!

子どもたちの教育環境を求めて道南へ。洞爺湖有珠山地域は、地球と生命の営みを感じられる世界有数の自然が広がるエリア。湖の東側に位置する壮瞥町には、町の中心部から車で10分の所にシュタイナーの学びを実践する「ひびきの村マルベリーの森のおうち」があり、さらに車で30分ほどの隣町・豊浦町には、日本では数少ない学校法人として認可されるシュタイナー学園いずみの学校※があった。
「まず洞爺湖畔にテントを張り、家族キャンプも兼ねて空き家探しのベース基地にしました。しかし土地勘がないので、湖の右周りから行く?左周りがいい?みたいな感じで(笑)。行き当たりばったりでしたね」。
最初に畑仕事をしている男性を見かけた。和幸さんが男性に空き家はないかと尋ねると、『空いてるよ』とあっさり。声をかけて1人目、拍子抜けするほどだった。
男性は中野さんという。中野さんは家主を知っていて、繋いでくれた。空き家まで案内してもらうと、そこは湖畔の一軒家。周囲は別荘地で、家主は住んでいない。もう使わないので早く手放したいというのだ。ただし、水道が無かった。「井戸」を掘らねばならなかった。「評価額を見たら〈価値のない家〉となっていました。しかし僕たちは、一目惚れでした。傾斜地に建ち、湖ビュー。決断に時間は掛かりませんでした」。
さらに、まい子さんの幼い頃からの夢は〈湖畔の小さな平家に住む〉こと。こんな巡り合わせは、もう二度とない!
「偶然にも中野さんは井戸を掘る技術を持っていて、サポートをお願いしました。すべてがトントン拍子です。ミラクルというか、引き寄せられている、と思いました」。 

※思想家・哲学者のルドルフ・シュタイナーが1919年にドイツで始めた教育実践。「人間形成」を理念に、知性だけでなく精神性を含めた全人教育を目指し、子どもの体と心の発達感に基づく体系的なカリキュラムを持つ。

子どもたちは、常に自然の中で遊び学ぶ。父はリノベ技術を生かして、観光地ならではの
新規ビジネスを開始。

壮瞥で出合った運命の一軒家。リノベーションは、家族が暮らしながら進めたという。
「天井を打ち抜くところからです。築40年、ネズミの死骸が出たり、断熱材は腐った状態で。最初は不安もありましたが、自分たちの思い描いた空間を形にできるので、むしろ楽しみながらできました」。
天井を高くした開放感のあるリビングには、アンティークのソファと雰囲気のある薪ストーブが鎮座していた。ビルトインの収納棚や隅々まで自分たちのアイデアを組み込んだダイニングキッチンには、テーブルを囲む家族の笑い声が響き、なんとも温もりのある時間が流れていた。
外に出れば、子どもたちは自宅前に広がる緑の中をワイルドに自転車で駆け巡る。休日は湖でカヤック、自宅裏は森なので、周囲を気にすることなく好きな時に家の中でバイオリンを弾けるという。
和幸さんは、自宅リノベーションの経験を活かして現在、洞爺湖温泉街にある古民家を簡易宿泊施設として改修し、手がけた施設の管理・運営を行うという、新しいビジネスを始めた。
「貴重な地質や自然に恵まれたこの地域は、世界中から観光客が訪れます。湖畔の水質やゴミ問題、ほぼ、半年間毎日打ち上げる花火の化学物質蓄積など、観光の背後にある環境負荷が気になります。美しい自然がなければ、観光も成立しない。自分たちの住む地域の環境の現状を知ることから何かが始まると思い、活動を始めました」。
その名も『toya project』。ゴミ拾い活動をはじめ、地域住民の環境意識調査や、湖の水質調査結果の可視化要望など、自分にできることから一つずつ取り組みたいと話す。
「壮瞥町は世界でも有数の自然と人の暮らしという大きな財産があります。この地域のポテンシャルは計り知れないと思います。若い人がこの地域で何かを始めたい、移住したいというきっかけに繋がるアクションを起こしていきたいですね」と和幸さん。無農薬栽培のコーヒー豆をフェアトレードで仕入れ、自ら焙煎して販売する『トヤ珈琲』は、その売上の5%を洞爺・有珠エリアの環境保全に役立てている。何気ない日常の一杯が、地球史を刻む洞爺・有珠の自然と生命に結実するならば、なんと豊かなコーヒーブレイクだろうか。地域の魅力を未来へ紡ぐ、想いの詰まった一杯だ。

Pick up

リビングの真ん中に手作りブランコが!アンティークのソファーやミラー、照明など、古民家ならではの造りが新たなアイデアを引き出してくれたという。

リビングから望む洞爺湖の眺め。晴れた日は湖に沈む夕陽が美しい。自宅前に広がる自然は、子どもたちの遊び場。今は自転車と湖でのカヤックに夢中なのだとか。

流木を活用した帽子掛けや子供たちのバイオリンもインテリアの一部に。隅々にまで夫妻のセンスとこだわりが感じられるのは、セルフリノベーションならでは。

トヤ珈琲
オーガニックコーヒー/フェアトレード/toya project

フェアトレードで仕入れた無農薬珈琲豆を、ロースターである
和幸さんが自宅で焙煎し販売。売上の5%は、洞爺・有珠エリアの環境保全に役立てている。

https://www.toyacoffee.com

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