- そうべつ人の暮らし
- 移住者インタビュー
洞爺湖町出身
▶ 江別市 〜 伊達市
▶ 壮瞥町
<移住歴8年>
軒を寄せ合うビニールハウス越しに、昭和新山が褐色の岩肌を見せて聳え立つ。訪れた場所は意外にも町の市街地。役場や公共施設などが集まる「滝之町」という地区に広がる見晴らしのよい平地で、入口の『大作農園』の看板が目印だ。
木村大作さん、32歳。トマト農家歴7年目だが、実家は農家でもなく、後継者でもない。新規参入の就農者としてゼロからスタートした。24歳の時だった。「生まれは隣町の虻田(現・洞爺湖町)ですが、中学生までは将来やりたいことや夢もなくて。高校進学を考えた時、教室でただじっとしている授業ではなく、実習が多い壮瞥高校なら自分に合っている気がして、園芸科を選んだのです。そしたら農業にどんどん興味が湧いてきて」。
高校卒業後、江別市にある北海道酪農学園大学 酪農学部 農業経営学科に進学した。教員免許状も取得し、教師になる道を選ぶこともできたのだが、ふと疑問が浮かんだ。「農業のリアルな現場も知らずに、人に教えることなど出来るのだろうか?」
ならば、やってやろう。それが全ての始まりだった。
大学卒業後、故郷に近い伊達市の農業法人で農業研修生として2年間ほど働いた。「ここでは色々な経験をさせてもらいましたが、研修生だから貯金は全然できなくて...。それでも農場を持ちたいという気持ちが強くなって、農地を探し始めたのです」。
伊達市は、"北海道の湘南"といわれるほど、温暖かつ積雪の少ない地域で、農業を始めるにも理想の地だった。「それだけに土地の価格が高くて。農協や市役所へ相談に行くと開口一番、『貯金はいくらあるんだい?』と聞かれました。『ないです』と答えると、『そりゃ無理だよ〜。大作くんはまだ若いんだからマグロ漁船にでも乗ってお金を貯めてからおいで』と冗談まじりに言われたこともありました」。農業をやりたいのに、漁業を勧められるなんて、思いもよらない言葉だった。
「土地もない。機械もない。新規就農にはまとまった資金が必要だ。頭では理解していましたが、どうしても諦めきれなくて・・・伊達にこだわるのをやめて、母校のある壮瞥町へ行ってみたのです」。
「最初に、壮瞥町役場へ行きました。すると担当の人が、若くてやる気がありそうだから、やってみないさいと言ってくれたのです。えっ、こんなに簡単に夢が叶うの?って感じでした(笑)」。
折しも、壮瞥町の就農者支援制度が創設された年だった。運命的な巡り合わせのもと、1年間の町内就農研修を条件に、〈農業用施設及び機械等の取得に対する助成/上限200万円〉と〈農用地取得に対する助成/上限50万円〉の合計250万円を借りることができた。不足分は、北海道の助成金制度を利用した。「役場の人が親身なって、ずっと相談に乗ってくださったおかけです。研修先も、地域では野菜農家の先駆者として知られる大ベテランで、今も"親方"って呼ばせてもらっています」。
"親方"のもとで1年間研修した後、好条件の農地が見つかり、トマト農家として大きな一歩を踏み出した。「最初はハウス2棟からでした。それも、親方と一緒に隣町から解体して運んできた中古品。私の場合、貯金ゼロからのスタートだから、アレが無いコレが無いと話すと、周囲の人が知り合いに声を掛けてくれ、なんとかなるんです。壮瞥町の皆さんには感謝が尽きません」。
25歳で、念願の農場主になった。20代の新規参入就農としては、全国的にも数少ない成功例といえるだろう。「ですが、本当に大変だったのはその後でした。不足していたのは資金でも設備でもなく、私の技術力だったのです」。トマトの花に害虫がついてしまったことがある。花に傷がつくと実にも傷ができるため、商品価値を失ってしまうのだ。また、天候不順で、満足のいく食味や収量を得られないこともあった。順調に収穫できても、見込んでいた販路から断られる時もある。「最初、農業での収入はほぼ無かったですね。やっと食べていけるようになったのは3年目くらいから。いつも周囲の人が気に掛けてくれ、アルバイト先を紹介していただくなど、本当に救われました」。
今、ようやく自分が納得のいくトマト作りができるようになったと話す大作さん。『くだもの狩り』が盛んなここ壮瞥町で、数年前から観光協会の協力を得て『プチトマト狩り』を始めた。「トマトは、作り手の技術力がストレートに現れる作物だと思います。だからこそ、このハウスで育ったものを、その場で収穫体験しながら食べていただきたいと思って。『おいしい』と言ってくださるお客様の姿を目の前で見ると、モチベーションが上がりますよ」。
土作りからこだわり、自然と向き合う毎日。苦労も多いが、後悔は全くないという。「20代で就農できて良かったと思います。"達人"の域に到達するまで、時間はあった方が有利ですからね (笑)」。
その情熱が『完熟』する頃、大作さんはきっと"達人"と呼ばれているに違いない。
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