そうべつ人の暮らし
移住者インタビュー
中岡 紗恵子さん

壮瞥町役場 地域おこし協力隊 中岡 紗恵子さん

愛知県名古屋市出身
▶ 海外留学・インターンシップ経験など
▶ 壮瞥町
<移住歴3年3ヵ月>

間に立ち、双方の想いを「伝える×繋げる」国際交流の素晴らしさを、地域の魅力発信に生かす

美しい自然、街並み、
オープンマインドな国民性。
1分1秒が惜しいと思えた
フィンランド留学。

中岡さんの配属先、壮瞥町教育委員会がある地域交流センター山美湖(やまびこ)を訪ねると、北欧フィンランドの伝統装飾、「ヒンメリ」が出迎えてくれた。
ヒンメリとは、麦わらで作る幾何学的な多面体をつなぎ合わせた装飾品で、別名「光のモビール」とも呼ばれ、眺めているだけで心が和む。
フィンランド。それは、壮瞥町にとって、そして、中岡さんにとっても、大切なキーワード。
壮瞥町は1993年に同国ケミヤルヴィ市と友好都市宣言に調印し、町内の希望する中学生全員を対象とする中学生フィンランド国派遣(海外研修)事業を実施するなど、長年交流を続けている。
中岡さんは、大学時代のフィンランド留学をきっかけに、ファームステイやインターンシップで滞在するなど、縁の深い国だ。
「中学生の頃から英語が好きでした。特に文法が好きで、趣味のように勉強していました(笑)。名古屋市立で唯一英語科のある高校に進み、交換留学制度を活用しました。初の留学先はアメリカ・ニューヨーク州。1年間ほどホームステイしましたが、当時は内気で積極的に話しかけられず時が過ぎてしまいました。それからもっと英語を勉強したい気持ちが強くなり、英語教育に力を入れている大学へ進学。大学時代は国際英語を専攻し、世界共通語である英語がどのように世界で使われているかという点に関心を持ち、英語圏ではないフィンランドに再び留学することに決めました」。
公用語はフィンランド語とスウェーデン語だが、多くの人が英語を話せる国で、大学の授業も英語だった。そのため留学⽣も多く、中岡さんは、大学で学んだ生きた国際英語を経験しながら、異文化体験や美しい自然、フィンランド国民の人柄に惹かれたと言う。
「謙虚で、素直で、温かくて。肩書きなどで人をジャッジせず、対等に向き合って相手を認めてくれます。私もフィンランドの人々に受け入れてもらい、毎日が楽しくて、自分や自分らしさを大切にできるようになりました。学校、食事、買い物や散歩...特別なことをしなくても幸せで、1分1秒経つのが惜しいと思える経験でした」。

コロナ禍で国内移住を検討。
壮瞥町が、
フィンランド共和国の
ホストタウンに!

その後もフィリピンでボランティア活動をするなど、積極的に海外に飛び出した中岡さん。社会人になってからも農業を手伝うファームステイや、インターンシップとして観光・旅行関連の現場で働くなど、フィンランドで現地の生活を体感した。
「ですが、新型コロナウイルス感染症の流行で帰国することになり、日本で待機する日々が続きました。なかなか収束しない中で、日本の地方の良さに目を向けるようになりました」。
フィンランドのような北の大自然へ。そんな発想から北海道移住を考え始めた。
「【北海道・フィンランド・英語】などをキーワードに探すと、壮瞥町が地域おこし協力隊を募集していると知り、調べてみると、長年フィンランドと交流があることや、東京2020オリンピック・パラリンピックのホストタウン推進員募集の記載があり、興味を持ちました。なかでも一番の決め手は、湖の見えるまちに住みたいと思ったことです」。
折しも五輪開催が一年程度の延期を決定し、壮瞥町はホストタウン登録に名乗りを上げ、準備を進めている時だった。なんという運命的な巡り合わせ!
中岡さんは、壮瞥町スポーツおこし協力隊に採用され、2020年9月に着任。配属先の教育委員会で、スポーツや国際交流事業の企画・運営などに携わることになった。
「ホストタウン登録では、フィンランドオリンピック委員会(FOC)、壮瞥町、内閣官房とオンラインミーティングをし、壮瞥町の長年の交流実績を伝え、また、選手団からはニーズをお聞きし、どのように連携できるか等を話し合いました」。
運営委員会と交渉する大役を勤めた中岡さん。関係者と交わしたメールは400通を超えたそうだ。
「その結果、壮瞥町は事前合宿を伴うホストタウンに選ばれました。オンラインで調印式を行ったり、町内の小中学生に協力してもらって国歌を歌う動画を制作したり。ホストタウンとして選手団を応援し、おもてなしする経験が、未来に語り継がれる町全体のイベントになって欲しい。私も微力ながらお手伝いができればと思い、ひとつひとつ貴重な業務に取り組みました」。

『あなたもチームの1人』。
30年間の友好の絆が
あったからこそ、
選手団に想いが伝わった。

一年延期となった東京2020だが、2021年も感染症拡大は止まらず、北海道も2度目の緊急事態宣言が発令されるなど、開催を危ぶむ声もあった。
「様々な報道がありましたが、せっかく選手団を受け入れるからには、盛り上げたい。また、壮瞥町の皆さんは30年間フィンランドから温かいおもてなしを受け、恩返しがしたいという想いが強いと感じていました。直接交流が難しくても、少しでも町民が関われるような企画を実施しました」。
『世界のおもてなし料理レガシープロジェクト』に参加し、フィンランドの伝統料理を地元の食材でアレンジする企画でレシピを開発したり、町民と一緒に「千羽鶴」や「ヒンメリ」を作って飾ったり、七夕の短冊には応援メッセージを書いてもらったりしました。千羽鶴は目標の千羽を超え、三千羽にもなったそうだ。町民の想いが嬉しかった。
受け入れた選手団は、陸上・男子競歩の選手3名とコーチ陣などスタッフ計7名。8月に札幌市で開催される大会前となる7月19日~31日までの13日間、町内の宿泊施設を貸切り、一行を迎えた。
「チームと合流してからは、私は通訳として、正確に情報を伝えるという使命がありました。コロナ禍で制約が多く、直前までマニュアルが変動するなど緊張状態の中での通訳に難しさもありましたが、相手国の文化や気質を尊重しながら伝えることが、お互いの気持ちを繋げることになると実感できた素晴らしい経験でした」。
壮行会で選手団から、<私たちは、皆さんの歓迎に毎日驚かされた。感動した。壮瞥町のおもてなしに心から感謝します>と言葉をもらった。期間中チームに帯同し通訳を担当した中岡さんには、選手と同じTシャツが贈られた。『あなたもチームの1人』だと。
「ホストタウン候補地が複数あった中で壮瞥町が選ばれたのは、30年に渡る交流実績と友好の絆があったからこそ。長い歴史の1ページになったら嬉しい」と中岡さん。感謝と感動がこみあげた。

地域の魅力を
もっと伝えられる人に。
これまでの経験を生かし、
旅行者と町の架け橋に。

ある日、中岡さんはガイド役として、昭和新山の麓にいた。
移住後に火山や地域の自然特性を学び、噴火の記憶を語り継いでいく「洞爺湖有珠火山マイスター」の認定審査に合格し、防災教育の現場などでも活躍しているのだ。
「移住して印象的だったのは、地域の皆さんにとって火山が生活の一部になっているということ。普段から防災意識が高く、火山の恵みにも感謝されています。ホストタウンでフィンランド選手団を火山の遺構公園に案内した際、皆さんの関心の高さを目の当たりにし、海外の人々にも噴火の歴史や火山との向き合い方など、地域の魅力をもっと伝えていきたいと思うようになりました」。
移住して3年目。壮瞥町での暮らしをどう感じているのだろうか。
「町の人はとても温かいです。火山の恵みである温泉を楽しんだり、大好きな洞爺湖の眺めに癒されたり。食べ物も美味しい。当たり前のことが、特別だと感じます」。
今、町の新戦略として、スポーツやアウトドアで観光や町を活性化しようと、壮瞥町教育委員会が主催となり、『そうべつアウトドアネットワーク』を設立、体験型のコンテンツ開発に力を入れている。
中岡さんはアウトドアネットワーク事務局で「地域コーディネーター」を務める。
「壮瞥町はスポーツ雪合戦の発祥の地であり、地域のために行動を起こす、熱い想いを持つ人が多くいます。各分野の第一線で活躍されているアウトドアネットワーク会員の皆様も豊富な知識と経験があり、皆様の意見を取り入れながら納得のいくコンテンツが実現するよう調整していきたいです」。
準備段階のモニターツアーでは、地域の魅力を見直し、地元で栽培が盛んなトマトや野菜を使用したピザ作り体験や、果物狩りをプログラムに盛り込むなど工夫を重ねた。
「ホストタウンでは、選手団に壮瞥町の皆さんのおもてなしの気持ちを伝え、また、選手団の声や感想を町民に伝える役割をいただき、間に立つことの重要性を感じました。この貴重な経験を生かし、旅行者と地域の人々の想いや魅力をつなぐ架け橋になれたらと思っています」。
優しく微笑みながら話す中岡さん。その内なる想いは町民に負けないくらい熱いものがありそうだ。

Pick up

フィンランドの⽂化を学べるイベントなども企画する壮瞥町内の国際交流団体『キートス・クラブ』では、フィンランドの郷⼟料理やお菓⼦を作る教室やクリスマスイベントなども開催。

『そうべつアウトドアネットワーク』で企画した冬の体験会では、子どもたちがスノーチューブやソリでの雪遊び、ビーコンを使った雪中宝探しなどを満喫!

子ども向け運動教室『キッズスポーツクラブ』。道具を使い、英語や遊びを交えながら楽しく運動。幼少期~小学生の部までクラス分けされ、季節毎に様々なスポーツを楽しむ。

「そうべつアウトドアネットワーク」特設ページ

https://www.town.sobetsu.lg.jp/chosei/gyosei/sobetsu-outdoor-network.html

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