移住後はじめた古民家カフェ

そうべつ人の暮らし
移住者インタビュー
長友さん

TOYACAFE珈琲焙煎所オーナー 長友 加也さん

静岡県浜松市出身
▶ 東京都内~神奈川県横浜市
▶ 壮瞥町
<移住歴4年5ヵ月>

困難な時こそ、好きなことで起業する。地域のストーリーが詰まった珈琲を全国へ。

移住者の、その後。
再会したら、
意外な町の宝を
発掘していた!

洞爺湖畔に、蔦の茂る一軒の古民家がある。
CAFEの看板に誘われ、色とりどりの草花が迎える玄関をくぐると、どうやら靴を脱いで入店するようだ。
目に飛び込んできたのは、透かし彫りの欄間や磨りガラスの扉、格子窓などで、手入れの行き届いたモダンな空間ながら、どこか懐かしい昭和の住宅のぬくもりに包まれる。
この店の名は、『TOYACAFE』。経営するのは、長友加也さんだ。
実は、私たち取材チームが初めて彼女に出会ったのは約3年前。当時、地域おこし協力隊として横浜市から壮瞥町へ移住し、一年半ほどが過ぎた頃の活動や暮らしを取材させていただいた。
移住後に「火山マイスター」認定審査に合格した彼女は、観光客や子どもたちに火山地域の噴火の記憶を伝えることで、減災の知恵や環境教育に取り組んでいた。ほかにも、地域住民の健康増進のために、彼女の本職である整体サロンとヨガ教室を兼ねたマルチスペースを開くという夢を語り、壮瞥町に新しい"風"を起こしている一人だ。
取材当時この古民家は、サロン開業に向けてセルフリノベーションの真っ最中だったはず。ということは、夢は叶えられたのだ!
......と思いきや、それだけではない。彼女は、私たちの想像を超える意外な道を歩み始めていた。

寛容で協力的な
町民性。
起業も周囲の支えが
あってこそ。

「お久しぶりです!」と出迎えてくれた長友さんは以前と変わらず、さばさばとした気持ちのいい人という印象のままだ。しかし、変化がひとつ。1歳10ヵ月の可愛らしい家族が増えていた。
2020年3月に、地域おこし協力隊の任期満了を迎えた。その間、壮瞥町で二女を授かった。
「3年間の任期を振り返ると、協力隊として受け入れていただいた自治体が、壮瞥町だったことに感謝しています。壮瞥は町民性なのか、移住者に寛容で協力的です。大好きな洞爺湖の近くでのびのびと暮らすうちに私はここで起業を考え、町の職員の方々も協力隊の制度を理解し、私の自立を応援してくださいました」。
確かに、前回の取材時、彼女は協力隊の活動をする傍ら、古民家のリノベーションに着手している。
「協力隊の時、私は〈商工観光課〉に配属され、観光に携わる仕事に就きました。そこで出会った上司も魅力的な方で、壮瞥は面白い町だと感じていました。観光ガイドをさせていただく中で視野も人脈も広がり、自分の夢を実現するために何が必要なのかが見えてきました。任期3年目には起業準備が整っていました。これも周囲の理解とサポートが大きかったと思います」。

人が、親子が、
集える場所を!
開始直後、
コロナ禍にもがく。

子育てをしながら個人事業主として、人が集えるマルチスペースを開業し運営。町民が気軽に通える整体サロンやヨガ教室を開催する中で、二女の産休・育休を経験し、ある思いが浮かんだ。
「田舎は、知り合い以外のママ友と出会う機会が無いと思いました。子ども同士も新しい知り合いと交流する機会が少ない。そこで、このスペースを整体やヨガ以外に、妊婦さんから未就学園児の親子が一緒に過ごせる憩いの空間にしようと考えました」。
思えば、移住先を壮瞥町に決めた理由の一つに、この地域はシュタイナー教育※1に携わる人が多いことだった。移住後、長女は壮瞥町からわずか10分で行けるシュタイナー幼児教育の幼稚園※2に通うことができた。娘たちがお世話になっている園の先生と話す中で、『TOYACAFE』を姉妹園のように使い、幼児教育の親子クラスを開催しようという話が進んだ。
長友さんは、この親子クラスを『ポッケ』と名付けた。ポッケとは、アイヌ語で「あたたかい」という意味を持つ。『TOYACAFE』にぴったりだと思った。
準備も順調に進み、シュタイナー幼児教育の親子クラス『ポッケ』がスタート。2020年春には、無料体験会なども開催しようと予約受付をした矢先だった。
あの未知のウイルスが世界そして日本を翻弄させ、北海道にも緊急事態宣言が発出。人が集うこと自体が難しくなってきた。

※1思想家・哲学者のルドルフ・シュタイナーが、1919年にドイツで始めた教育実践。「人間形成」を軸に、知性だけでなく精神性をも含めた全人教育を目指す。2021年現在、日本シュタイナー学校の正会員校は全国7校(NPO法人含む)。
※2 北海道伊達市にあるNPO法人「ひびきの村」内にある、シュタイナー教育の幼児保育を担う幼稚園「マルベリーの森のおうち」

自粛期間中、
珈琲焙煎に挑戦。
壮瞥高の
「りんご木炭」と出会う。

"新しい生活様式"という名の制限下で、日常は一変した。しかし、長友さんはコロナ禍の自粛期間中に、〈珈琲豆の焙煎と販売〉という新しい事業を思いつく。でも、なぜこの時に始めたのだろうか?
すると、「コーヒーが好きだから」と明快なご回答。さらに、「整体サロンやヨガ教室をしながら、このスペースを活かして趣味のコーヒーを提供できたら、と思っていました。でも、コロナ禍で人が集まることが難しくなり、以前のような日常に戻るかどうかも分からない。悩みましたが、いっそ、この時代の流れに身を任せてみようではないか、と思ったのです」。
自粛期間を利用して、珈琲焙煎に一念発起。豆のオンライン販売を始めれば、北海道だけでなく全国の人々とつながることができ、壮瞥町もアピールできると考えた。
豆は、無農薬・無化学肥料でフェアトレード※3の生豆を積極的に使用。手動回転式の本格ロースター機を購入し、焙煎は知人のカフェオーナーから学び、あとは実践あるのみ、と試験焙煎を何度も繰り返した。
「コロナ禍で『TOYACAFE』の活動を自粛せざるを得ない中、日々のコーヒータイムは私にとって大事な時間になりました。この一杯で、やる気が出たり、ホッとくつろげたり。だから、こだわらずにはいられないですね。豆選びから、焼き方、挽き方、淹れ方、そして飲み方...、コーヒーは奥が深いです」。
そして、2020年秋。長友さんこだわりの焙煎コーヒーに、壮瞥町の魅力が加わった。壮瞥高校・果樹専攻班の学生たちが作る〈壮瞥町産りんご木炭〉で焙煎した、炭焼コーヒーが誕生したのだ。

※3 発展途上国で作られた作物や製品を適正な価格で継続的に取引することによって、生産者の持続的な生活向上を支える仕組み。

ただ嘆くのではなく、
柔軟に。
地域の物語を味わえる
一杯を。

長友さんが焙煎した炭焼コーヒーのパッケージは、鮮やかな赤にチャコールカラーのりんごが印象的に描かれている。彼女自身がデザインしたそうだ。焙煎は、手動回転式のロースターで行う。季節や豆の乾燥状態など様々な条件を見極めながら焙煎。注文が多いと、4~5時間つきっきりになるという。
「壮瞥町は果樹の町。りんご木炭は、毎年出る果樹の剪定枝や老木・倒木の処理に農家さんたちが困っていると聞いた壮瞥高校果樹班の学生さんたちが、「炭」に加工する取り組みから生まれたものです。炭はバーベキューなどで使いますが、産地まで意識したことはありませんでした。でも世の中には、どこの誰がどう作ったのか分からないものが多すぎます。まして、コーヒーは人の口に入るもの。豆の産地にこだわるのなら、炭のルーツまで辿れる炭焼コーヒーの方が安心ですし、魅力もある。そこで、地元のりんご木炭を使うことに決めました」。
壮瞥産のりんご木炭は、炭を焼くための窯も、不要になった焼却炉を活用して自作するなど、学生たちが考えた有機的なサイクルの中で製造されている。
「りんご木炭は軽くて着火しやすく、安定して燃焼します。焙煎すると豆に、ほんのり良い香りがつきます」。
『壮瞥産りんご木炭の炭焼珈琲』を、ご馳走していただいた。
挽きたての豆を丁寧にハンドドリップする長友さんの手元に見惚れていると、香ばしいアロマに包まれた。一杯のコーヒーになるまでに、どれだけの人の想いと手間や時間が込められているだろうか。
「洞爺湖や昭和新山を望む果樹園の風景。そして、本来は捨てられていた枝や老木を学生さんたちが農家さんから受け取り、2日間かけて自作窯で焼き続けて炭にする。そんな地域のストーリーも、一緒に味わっていただけたら嬉しいですね」。
社会や日常が一変し、先が見通しにくくなった。長友さんは、「正直、今は大きな目標はないです。でも、世の中の変容にただ嘆くのではなく、柔軟に考え、動いていきたい。『壮瞥産りんご木炭の炭火珈琲』のように、地域資源を発掘し、今後も発信していきたいです」。
長友さん、"第二形態"へ。生き方を常に模索する彼女は、壮瞥町でしなやかに進化していた。

Pick up

壮瞥町産のりんご木炭で焙煎するのは、グアテマラ、コロンビア、エチオピア、デカフェ(ノンカフェイン)をベースに、フェアトレードのオーガニック生豆を使用。すべて注文を受けてから焙煎している。

『TOYACAFE』の縁側前で薪割り。夏の間に薪ストーブの燃料を確保する。「移住者あるある、ですよね」と笑う長友さん。手馴れた様子でパカンパカンと割る姿は、見ているこちらも快感。

仕事の合間に、親子で散策。ここは長友さんのお気に入りのスポットの一つで、穏やかな波が打ち寄せる洞爺湖畔を眺めながらゴミ拾い。湖と周辺の環境美化にも力を入れていきたいと話す。

TOYACAFE珈琲焙煎所

公式HP
https://toya-cafe.localinfo.jp/

オンラインショップ
https://toyacafe.theshop.jp/

壮瞥高校・果樹班のりんご木炭について
https://toya-cafe.localinfo.jp/posts/10628724/

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